子の親権をめぐる問題について

令和元年5月6日
1.ハーグ条約が発効しました。


国境を越えた不法な子の連れ去りを防ぐことなどを目的として、1980年、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)が採択されました。2014年1月現在、締約国は91ヶ国であり、日本についても、2014年4月1日に発効しました。

この条約の締約国は、不法に子を連れ去られた親権者からの申立てを受けて、条約上の例外事由がない限り、子が元々居住していた国に迅速に返還されるように努めるなどの義務を負います。子の返還後は、親権を巡る父母間の争い等は、子が元々居住していた国の裁判所において決着することになります。
以上のように、この条約は、不法に連れ去られた子の返還について定めるものですから、子の居住していた国の法律、手続に従って日本に連れてきた子が、その国に送還されることはありません。

外務省では、ハーグ条約について詳しく解説したホームページ(日本語・英語)を立ち上げておりますので、是非この機会にご参照ください。

日本語HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html 
英 語HP https://www.mofa.go.jp/fp/hr_ha/page22e_000249.html 


国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の我が国における発効 (343KB)
The Hague Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction (the Hague Convention) Entered Into Effect in Japan (251KB)

 

2.子の連れ去りは重大な犯罪です

 

近年、国際結婚のカップルが増えてきています。しかしながら、その一方で、結婚生活で困難に直面したそれぞれ国籍の異なる父母の一方が、子を現地の法律に反してBC州外に連れ去り、問題になる事案が発生しています。この問題について、是非留意していただきたい点をまとめました。

(1).実子誘拐罪の適用
カナダやアメリカの国内法では、父母のいずれもが親権を有する場合に、一方の親が他方の親の同意を得ずに子を連れ去る行為は、重大な犯罪(実子誘拐罪)とされています(注)。
例えば、カナダに住んでいる日本人の親が、他方の親の同意を得ないで子供を日本に一方的に連れて帰ると、たとえ実の親であってもカナダの刑法に違反することとなり、カナダに再渡航した際に犯罪被疑者として逮捕される可能性があります。また、実際、居住していた国に再渡航した際に逮捕されるケースが発生しています。
また、一方の親が単独親権を持っているとしても、他方の親がAccess(子との面会交流権)を持っている場合、その親の同意なくして日本に連れて帰れば、同様に逮捕される可能性がありますし、日本へ連れて帰るのではなく、他の州へ引っ越す場合でも、適用される可能性があります。

離婚後は一方の親が単独親権を持つことが一般的である日本では「親権」と総称しますが、共同親権が一般的であるカナダでは、親権をCustody(監護権)、Guardianship(後見人)、Access(子との面会交流権)の3つの役割に分けて考えます。この3つの役割を夫婦がどのように分担しているかによって、実子誘拐罪が適用されるかどうか判断されます。
(注)
○カナダ:14歳未満の子の連れ去りの場合、10年以下の禁錮刑等を規定(刑法第282、第283条)。
○米 国:16歳未満の子の連れ去りの場合、罰金若しくは3年以下の禁錮刑又はその併科を規定(連邦法Title 18, Chapter 55, Section 1204)。州法により別途規定がある場合もある。

(2).未成年の子の旅券申請
未成年の子に係る日本国旅券の発給申請については、親権者である両親のいずれか一方の申請書裏面の「法定代理人署名」欄への署名により手続を行っています。
ただし、旅券申請に際し、もう一方の親権者から子の旅券申請に同意しない旨の意思表示があらかじめ在外公館に対してなされているときは、旅券の発給は、当該申請が両親の合意によるものとなったことが確認されてからとなります。その確認のため、在外公館では、子の旅券申請についてあらかじめ不同意の意思表示を行っていた側の親権者に対し、同人が作成(自署)した「旅券申請同意書」(書式自由)の提出をお願いしています。
また、カナダにおいては上記1.のとおり、父母の双方が親権を有する場合に、一方の親権者が、14歳未満の子を他方の親権者の同意を得ずに州外に連れ出すことは刑罰の対象となる可能性があります。実際に、居住していた国への再入国に際し、子を誘拐した犯罪被疑者として逮捕されたり、母国への帰国後にICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際手配される事案も生じており、当館では、在留邦人の皆様がこのような不利益を被ることを予防する観点から、14歳未満の子の旅券申請の際には、他方の親権者の不同意の意思表示がない場合であっても、旅券申請に関する両親権者の同意の有無を口頭にて確認させて頂いておりますので、あらかじめご承知ください。

 

(3).家庭問題に関する相談はお早めに関係団体・機関へ
日本人の親の中には、外国人の相手の方とのコミュニケーション・ギャップや価値観の違いによるストレス、虐待など深刻な事態に直面し、別居や離婚に至った場合、それらの状況にまで至らない場合でも、戸惑い、外国における孤独感などから、ついつい子を連れて日本に帰ってしまおうと思われる方も多々いらっしゃるかと思います。しかしながら、そのような行動には上記で述べました多くの法律上の問題が生じます。
当地には、家庭の問題、虐待に対する人権の面からの対応を行っている団体及び機関が多くあり、中には日本語で対応してくれる機関もあります。
また、あなたのお子さんは、相手の方のお子さんでもあります。問題の兆候が見え始めたら、下記のリンクも参考にして速やかに各種団体・機関にご相談されることをお勧めいたします。
https://www.vancouver.ca.emb-japan.go.jp/itpr_ja/sodan_info_j.html