新型インフルエンザの特徴
パンデミック(感染爆発。感染症や伝染病の世界的大流行。)が懸念されている新型インフルエンザ。北米では、幸いなことに未だ脅威を及ぼす存在とはなっておりませんが、それでも今年の1月及び2月に、アボッツフォードの家禽農場で渡り鳥からの感染と思われる鳥インフルエンザの発症例が見つかっております。
そこで、今回は、新型インフルエンザの特徴について、専門家からうかがった内容をもとに簡単にお伝えしておこうと思います。
「鳥インフルエンザ」から「新型インフルエンザ」へ
インフルエンザには本来A、B、Cの3つの型があり、このうちA型インフルエンザウィルスは、ウィルス表面の16種類のHA(赤血球凝集素)と9種類のNA(ノイラミニターゼ)というたんぱく質に分けられます。そして、これらHA及びNAが人間の細胞内にあるレセプターと結合し、体内に浸透することによってウィルス感染が起こるのです。
「鳥インフルエンザ」は、A型インフルエンザウィルスを原因とする鳥の感染症であり、中でも発症すると重篤な症状と高い死亡率を示すものを「高病原性鳥インフルエンザ」といいます。鳥インフルエンザは、従来ヒトに感染することはなかったのですが、H5N1鳥インフルエンザについては、獣等を介することなく直接ヒトに感染する症例が増えてきていることが問題となっており、今後これがヒト社会に定着して、ヒトからヒトに感染する「新型インフルエンザ」になることが懸念されます。(但し、ヒトからヒトへの感染については、現在までのところ、同様の遺伝子を有するヒト同士、例えば親子間の感染のみが発生しています。)
感染経路、特徴など
新型インフルエンザの感染経路、症状等の特徴を整理しますと、次のとおりです。
○感染経路:粘膜を介した接触感染、飛沫感染、(空気の乾燥する冬に可能性が高まる)空気感染
○潜伏期間:2~4日間、最長8日間
○初期症状:高熱(38℃以上)、下気道症状(咳、息切れ、呼吸困難、頻呼吸)。その他、水様性下痢、嘔吐、腹痛を伴うこともある。
○予後:治療がなされないと、重症肺炎、全身感染、サイトカインストーム(サイトカイン・たんぱく質の過剰産生)、多臓器不全等を発症し、死に至る。
○死亡率:
WHO(世界保健機構)では、過去のインフルエンザ流行例にかんがみ、新型インフルエンザによる死亡率を2%と見積もっています。他方、現状ではヒトに感染したH5N1トリインフルエンザの場合60%の死亡率を記録しているのが現状です。
今後、ヒトの体内で増殖しやすく(ヒト型レセプターやヒトの体温に柔軟に対応)強毒性を保持したウィルスが更に登場する場合も想定すると、パンデミックになった場合の死亡率は2%以上に拡大することが懸念されます。
過去の例:1918年のスペイン風邪(H1N1)5000万人死亡(死亡率5%)
1957年のアジア風邪(H2N2)500万人(0.5~1.5%)
1963年の香港風邪(H3N2)200万人(0.2~0.7%)
なお、1歳以下、又は65歳以上の死亡率が高い通常のインフルエンザと異なり、新型インフルエンザの場合、免疫機構の活発な若年層の死亡率が高いのが特徴です。
診断と治療
新型インフルエンザについては、既存のインフルエンザ診断キットを用いた場合、「陰性」反応を示してしまいます。逆に高熱等の症状を示しているのに、既存の診断キットで陰性ということは、新型インフルエンザ感染の可能性が高い、ともいえるのです。
新型インフルエンザに対する専用診断キットについては現在開発が進められております。
また、その治療法につきましては、「タミフル」薬の内服治療を受けることが基本となり、第一に、1日2カプセル5日間の内服を基本とし、第二に、初期症状発症後、48時間以内に投与を開始する必要がある、ということになります。
その他ご参考までに申し上げますと、別途抗インフルエンザ薬「T-705」の開発が進んでおり、現在臨床段階にあるほか、プレパンデミックワクチンについても現在臨床段階にあります。
当地医療機関等の準備状況
カナダのような先進国の場合、新型インフルエンザの治療は、地元の医療機関を通じて受けることが基本となります。しかし、当館が管轄するBC州及びユーコン準州を含め北米では未だH5N1型ウィルスの発生は認知されておらず、指定医療機関などについても当面特別に定められてはいません。また、BC州では、タミフル薬について、疾病管理センター(BC Centre for Disease Control, http://www.bccdc.org/ )がその管理の任に当たっています。
今後、新型インフルエンザなどの流行が予見乃至は発生した場合、BC州では、保健省(Ministry of Health Services)及び疾病管理センターを中心に関係医療機関と連携してBC Pandemic Influenza Preparedness Planを立ち上げ、事態に対処する予定とのことです(http://www.bccdc.org/content.php?item=150 )。また、この計画の中で指定医療機関、外来受診・相談のための窓口などが決定され、告知されることとなる模様です。ユーコン準州でも州政府レベルの準備計画が進められています(http://www.hss.gov.yk.ca/programs/health/ycdc/pandemic_flu/ )。
鳥インフルエンザの情報は、外務省海外安全ホームページ(http://www.anzen.mofa.go.jp)でもご覧いただけます。ブックマークを宜しくお願いいたします。
|